根本かおる
東京大学法学部卒。テレビ朝日を経て、米国コロンビア大学大学院より国際関係論修士号を取得。1996年から2011年末まで国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)にて、アジア、アフリカなどで難民支援活動に従事。ジュネーブ本部では政策立案、民間部門からの活動資金調達のコーディネートを担当。WFP国連世界食糧計画広報官、国連UNHCR協会事務局長も歴任。フリー・ジャーナリストを経て2013年8月より現職。著書に『難民鎖国ニッポンのゆくえ - 日本で生きる難民と支える人々の姿を追って』(ポプラ新書)他。
https://www.unic.or.jp/

※ 本サイトに掲載している情報は取材時点のものです。

INTERVIEW

「ジェンダー平等」「女性のエンパワーメント」は、国連広報センターが発信する最重要課題のひとつです。多様性を尊重する経営、多様性を持った人たちが自分らしく働ける職場づくり、多様性を持った人々のニーズを満たすビジネスを、すべての企業が目指すこと。そして、社会全体が、多様性を持つ人々にとって自分らしく生きられる場になることを願っています。

根本かおる

国連が掲げる「ジェンダー平等」という価値

国連広報センターは、国連を理解するためのさまざまな情報を日本語に訳し、日本の人々に発信する役割を担っています。現在、私たちが発信する情報の中でもっとも注目を集めているのが「SDGs(持続可能な開発目標)」。これは、貧困や飢餓、エネルギー、気候変動、平和的社会など、持続可能な開発を目指す国際目標です。
SDGsで掲げられた17の目標のうち、ゴール5に「ジェンダー平等を実現しよう」というものがありますが、ジェンダー平等は目標のひとつにとどまらず、17すべての目標を横断的に支える通奏低音です。日本では、"経済成長のために"女性の活躍推進を活発にする向きがありますが、女性の活躍推進そのものが人権であると同時に、平和など社会的に大きな価値の礎だと、私は思うのです。
ジェンダー平等、多様性は、国連のなかでは浸透していますね。国籍、宗教、性的な志向性……世界で最も多様性に富んだ職場とも言える環境ですから、「皆違っていて当然」という考えが一般化されており、性差を特別に意識することはほとんどありません。しかし、一歩職場の外に出れば、まだまだジェンダー平等が進んでいない印象を受けます。たとえば、ジェンダー平等について語る講演会であるにもかかわらず、登壇者は私以外、男性しかいないといったことも多くあるのが実情です。男性の頭だけで考えた施策、当事者の意見を聞かない施策は無理がありますね。女性が表に出にくくなっている社会デザインを、改善していかなければならないと思います。

女性が抱える問題の解決の糸口は、女性自身

根本かおる 途上国も、先進国も、ジェンダー平等を完全に実現している国はまだひとつもありません。たとえば、難民キャンプでの性暴力の問題、あるいは日本でシングルマザーが抱える問題……世界を見渡しても、大なり小なり共通性のある問題を抱えているのが現実です。そこに必要なのは女性の力だと思います。留学時代、「女性は『言葉にならないシグナル』を汲み取ることに長けている」と感じました。女性が抱える問題を、国が違っても説明しなくとも理解し合えたことで、女性の間の連帯を感じました。だからこそ、国連では女性の職員を難民支援の現場などの活動の最前線に投入し、女性の力を最大限活かしています。

多様性は「力の源泉」

根本かおる 今後、多様性を持たない企業には黄信号が灯るでしょう。多様性とは、力の源泉だと思うからです。同じ思考を持つ人たちの集まりでは、当座の仕事は進めやすいかもしれませんが、組織としては脆弱でしょう。異なる価値観を持つ人が集まるからこそ、それぞれの立場からの多様な意見が出され、それが議論を活性化します。こうした議論が組織を強くすると、私は考えています。
ただし、多様性のある組織では、皆が異なる価値観を持つからこそ、"あうんの呼吸"は通用しません。言語化して説明することが求められます。これは、組織の外でも同様です。組織を取り巻く環境も多様性をはらんでいますから、さまざまな立場にある人が意見を言いやすい場を作ること、さまざまな意見に耳を傾けること、説明により多様性を持った人たちを納得させることが重要になるでしょう。
私たちが発信するSDGsは、おかげさまで多くの日本企業の関心を集めています。今後も、SDGsがより企業に内包化され、常日頃から推進される環境になってほしいですね。多様性を持つ強い組織が増えることを願っています。