吉田緑
国内及び米系医療機器メーカー薬事部にて医療機器の薬事申請業務に従事。 その後、認証機関にて日本製品の海外輸出、海外製品の日本導入等をサポート。 現在は医療機器の薬事申請や認証機関での薬事・QMSサポート経験を活かし、医療機器の海外・国内規制へのコンサルティングを行う。
https://mk-duo.com/

※ 本サイトに掲載している情報は取材時点のものです。

INTERVIEW

病院やクリニックなどで使われている医療機器には、薬と同様に法規制があります。当然メーカーは機器を販売、普及させるためには、法律が定める規格を守り、国の許可を受けなければなりません。私たち、mk DUO合同会社は、そうした医療機器の開発から、国内外の法規制対応まで、医療機器ビジネスを全般的に支援しています。理系分野にあって男性が多くを占める業界ですが、18年間業界に携わってきた経験から、女性だからこそ活躍できるシーンがあることに気づきました。そしてその利点を生かすことで、業界がより発展することに期待を抱いています。

吉田緑

医療機器の普及を左右する重職の魅力

日本のメーカーには男性のエンジニアが多く、医療機器メーカーもご多分に漏れず、総じて男性比率が高い傾向にあります。その中で女性は法規制対応の資料作成のような業務に携わる方々が一部いますが、各種の意思決定の場に参加している女性は圧倒的に少なく、私も前職ではその中の一人でした。現在はメーカーから審査機関の経験を通じて、コンサルタントとしてクライアントの各種の意思決定の場に参加させてもらい、意見を言う機会を得ています。
そのような中で、製品開発時にカスタマーニーズを精度高く捉え理解し、クライアントの問題を解決するために俯瞰的且つ具体的な視点で解説することでクライアントから「クリアになりました」と言われ、自分の言動がクライアントの意思決定や行動に役立っていることに喜びと誇りを感じています。
その結果として、私の立場では医師や看護師のように直接、患者さんを助けることはできませんが、良い医療機器を早期に市場に普及させることの一翼を担い、間接的に社会貢献できることは、大きなやりがいとなっています。
その思いは、メーカーから審査機関へ転職した時も、コンサルタントになった今も変わりません。それよりか、医療機器ビジネスを支援する立場になり、消費者だけでなくクライアントのメンバーやその企業に関わる全ての人など、より多くの人に喜びを与えられるようになった点では、以前よりもやりがいが大きくなったとさえ感じています。

諦めなければ道は切り拓ける

吉田緑 気づけばこの業界に携わり18年が経ちますが、実は私は理系ではなく、文系の出身なんです。しかも就職氷河期で新卒で就職できず、数年間は医療機器とは全く関係のない別の業界の派遣社員でした。当時は正社員でもなければ、特別なスキルがあったわけでもなく、自分はこの先、どうやって生きていけばいいのか、漠然と不安を抱いて生活している人間でした。
ひょんなことから光学機器メーカーの薬事部門に勤めることになり、その仕事に魅力を感じていた一方で、理系出身者と比べれば、スタートの時点で知識量が劣っており、挙句、仕事の効率も悪い。どうせ自分は出世する人間ではない、組織の歯車に過ぎず、こんなふうに人前に出るような人間ではないと、ずっと劣等感を抱えていたのです。
しかし、自分自身になんの期待も持てないネガティブな私でも、環境が変わるたびに新たな仕事への挑戦を継続して、それなりの結果を出してきたことで、いつの間にか自信とポジティブなマインドセットを身に着けることが出来ました。この変化は自分のこれまでの半生において極めて重要なものであったと振り返ります。今のコンサルタントという職は特に、プロジェクトの成功を導くガイド役にならなければなりませんが、それは理系文系に関係なく人に伝えるコミュニケーションスキルが最も問われる能力であることに気付かされました。精神面・能力面も克服した現在、過去の自分から比べれば大きく成長を遂げたものだと驚きさえ感じています。
これからの日本を背負う若い人たちには、何ごともやり続けること、簡単に諦めないことを大切にしてほしいです。継続さえすれば、必ず身になり形になって明るい将来が待っていると助言したいですね。

女性の柔和さが最大の武器になる

吉田緑 私の場合、成長できた理由は、長年のネガティブな思考を克服したことだったわけですが、そのきっかけは、男性が多い業界において女性だからこそ活躍できるシーンがあることに気づいたからでした。
それは、クライアントに法規制に関する説明を行う際のことです。同じ説明を行うのに、説明者が男性である当社のCEO肘井と、私の場合とでは、私の方が決まって多くの質問が返ってくるのです。私の見解では恐らく女性の方が、雰囲気が柔らかく気軽に質問がしやすいのではないかと考えております。法律の文言は難解ですから、一度説明を聞いただけでは理解できない場合が多くあります。もし理解しないままプロジェクトを進めてしまえば当然認可は出ませんし、再度打ち合わせなどを要し、クライアントとホスト両者にとって非効率であることは明らかです。
”わからないけど質問ができない”という感覚は、時に男性の間で無意識に生じる弊害ではないかと分析します。その半ば論理では通らないものを解消する役を担えるのが女性ではないかと思います。またこの業界は保守的な傾向があり、横のつながりがほとんどありません。業界全体の活性化を思えば、横断的なつながりが必要不可欠です。そのハブの役割も、女性が担えるのではないでしょうか。男性ばかりの業界だからこそ、女性の存在が光ると思いますし、今後、そういった人材が一人でも多く増えることに期待したいです。